オーケストラの楽器たち

指揮者
コントラバス チェロ ヴィオラ ヴァイオリン2nd ヴァイオリン1st
ファゴット オーボエ フルート クラリネット
チューバ トローンボーン トランペット ホルン
打楽器 ティンパニー

ヴィオラ【英:viola/独:Bratsche/伊:viola/仏:alto】

🎻 楽器データ 🎻

サイズ 全長65センチ前後(楽器によってかなり違う)
ヴィオラの名曲 チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」の冒頭
モーツァルト/ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲
 ……など。
現代曲は多い。
ヴィオラ弾き有名人 皇太子殿下
後藤悠仁さん(日本フィル・トップ奏者、埼フィルの弦トレーナーです!)
今井信子さん
音域

ステージのここにいます!

オーケストラで使われる楽器を演奏会ごとにひとつずつ紹介していくシリーズ、連載スタートの第1回は、オケのなかでも謎の多い楽器、ヴィオラをご紹介しましょう。

みなさん、「ヴィオラ」ときいて、どんなことを思い浮かべますか?
「ヴァイオリンのちょっと大きいやつ」…その通りです。
「皇太子さまが弾いてますよね」…よくご存知ですね。
「なんだか、ジミな存在」…うーん、そうかも。
「そんな楽器あるの?」…悲しい...、けどそういう人、意外に多いかもしれません。
そんなみなさんのために、オーケストラのなかでも裏方として実はとても重要な存在の、「ヴィオラ」という楽器についてお話ししましょう。

オーケストラでは断然目立ち、旋律を弾くことも多いヴァイオリンとチェロの、中間の音域を担当しています。
弾くかっこうはヴァイオリンと同じですが、写真のとおり楽器のサイズが少し大きいことがいちばん目立つ違い。
また音色は、ヴァイオリンが明るくキラキラしているのに対して、しぶく深みのある甘い音が特徴です。音域からしても、人の声に近いと言われることもあります。

本日お聴きいただく曲では、ラフマニノフの3楽章の冒頭、この甘美な楽章でヴァイオリンの美しい旋律がはじまるまえの短い導入部を弾いているのがヴィオラです。
ほんのわずかですが、指揮の田部井先生に何度もお褒めいただいた(……お世辞かもしれませんけど)、埼フィルが誇るヴィオラパートの美しい音色、絶対に聴きのがさないでくださいね。


目!のラフマニノフ3楽章冒頭のヴィオラの譜面

見ためは似ていても、ヴァイオリンとの役割分担も明確です。
ヴァイオリンは旋律を弾くことがとても多いのに対して、ヴィオラは単独の旋律はほとんどありません。たまに旋律が出てきても、お隣のチェロと一緒だったりします。そうすると、チェロのほうが音色が明るいので目立ってしまうんですね。
悲しいヴィオラの性です。

「そんなヴィオラを弾いていて、何が楽しいの?」…よくぞ聞いてくださいました!
たとえば本日も演奏するモーツァルト。ヴァイオリンがコチョコチョ、一生懸命に細かい音符を弾いている陰で、悠然と長い音符を弾きながらハーモニーを支えているとき、たとえようのない快感を覚えます。そんなときは、(ここだけの話ですよ)あえて楽譜の指定よりもちょっと大きめに弾いちゃったりすることもあります。
あるいは、ブラームスの内声の美しさ。これも弾いていてたまりません。よく、“ヴィオラがいいとオケがよくなる”と言われます。中身が濃い――そう、アンコがぎっしり詰まったお饅頭のようなものですね。

そんな控えめな音符をいつも弾いているせいか、たまに「Solo」などと楽譜に書いてあると、もう緊張して心臓はバクバクしてしまいます。
いつもの目立たない役回りに体が慣れきっている。普段は自分が前面に出るよりも、仲間の音楽を聴いて「美しいなぁ~」と思いながら、それに合わせて楽しんでいるんです。それがヴィオラ奏者の醍醐味なんです。そこへ急に、「あなたがいちばん目立って!!」と言われても……。作曲家も意地悪ですよね。

さてここで、おもしろいものをお見せしましょう。右の上の図、何だと思いますか? ヴィオラの人たちがいつも見ている譜面の、各段の最初に書かれています。
音楽の時間などで見慣れているのは下の二つ、ト音記号やへ音記号ですよね。しかし、これは何でしょう?

この不思議なマーク、「ハ音記号」といいます。
先ほどのヴィオラのパート譜を見てください。赤い矢印をつけた真ん中の線が「ド」の音です。実はコレ、音楽をやっている人でも、意外に知らない人も多いんです。オーケストラのなかでは、ほかにはトロンボーンなどはハ音記号の楽譜を見ています。
ただ、ときに音が高くなると、おなじみのト音記号が出てきたりして、かえって奏者を混乱させます。とくに今回のラフマニノフは、ふたつの記号の混在が多いので、気が抜けません。

では、そんなヴィオラを弾いている埼玉フィルのメンバーに、ちょっとインタビューしてみます。

――ヴィオラって地味ですが、始めたきっかけは?
「大学のオケに入って、ヴァイオリンはいっぱいだからと、ヴィオラにまわされました。でも僕のあとに、かわいい女の子はヴァイオリンに入っていたのです」
「30の手習いで始めたので、もうヴァイオリンじゃムリだろうと思ってヴィオラにしました」
「最初はヴァイオリンを弾いていたんですが、ヘタだったのでヴィオラにされてしまいました」
「チェロが希望だったのですが、手が小さくてできなかったのです」
「たまたまヴィオラパートは、人数が少なかったから……」

――うーん、どうも消極的な理由が多いようですが、では今でもヴァイオリンは弾いてみたいと思っていますか? 他の楽器への憧れは?
「ヴィオラの楽しさが染みついているので、ヴァイオリンは弾きたくありません」
「昔さんざん遊んだので、もういいです」
「ぜんぜん思いません」
「なんで女の子は、ヴァイオリンに入れたんだろう……」

――ヴィオラのどんなところが好きですか?
「つまらなそうな私たちの刻みが、美しいハーモニーの基礎になっていると思うと気分がいいです」
「まわりが美しい音楽を奏でているとき、それに合わせる伴奏がとても好きです」
「ヴィオラにしか出せない独特の深みのある音色が大好きです」
「一人でヴィオラ協奏曲のソロパートを練習するのが密かな楽しみです」

――埼フィルのヴィオラパートをひと言でどうぞ!
「元気な女性陣が新人男性陣を引っ張ってるって感じですかね。でも、強引じゃないですよ。男性陣がおとなしいんです。ただ、音楽では譲らないんですけどね」
「うんうん、その通り」(全員納得)
「練習熱心だし、まとまりもいいです」
「このあいだ、4人で飲みに行きました」
「いつも頑張って美しいハーモニーを支えてます。プログラムの紹介には、いいこと書いてくださいね!」
はいはい、ちゃんと書いておきますよ。……というわけで、ふだんはあまり意識することがないかもしれない「ヴィオラ」という楽器にも、今日の演奏会ではちょっと注目してみてください!