オーケストラの楽器たち
指揮者 | |||||||
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コントラバス | チェロ | ヴィオラ | ヴァイオリン2nd | ヴァイオリン1st | |||
ファゴット | オーボエ | フルート | クラリネット | ||||
チューバ | トローンボーン | トランペット | ホルン | ||||
打楽器 | ティンパニー |
ホルン【英:horn/独:Horn/伊:corno/仏:cor】
🎻 楽器データ 🎻
サイズ | 直径約40センチ |
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ホルンの名曲 | チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番の冒頭 ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ |
ホルンを愛した作曲家 | マーラー、リヒャルト・シュトラウス |
ホルン吹き有名人 | 福山雅治(ブラスバンドでホルンを吹いてたそう) 曽根敦子さん(東京交響楽団奏者、埼フィルの金管トレーナーです!) |
ステージのここにいます! |
オーケストラで使われる楽器を紹介するシリーズ、第2回は埼フィルが誇るプレイヤーたちがズラリ勢ぞろいする、ホルンをご紹介しましょう。
まずは写真を見てください。なんだかギッシリ詰まってますね。管を全部伸ばすと、4メートルにもなるそうです。それをクルクル・ゴニャゴニャ、丸めて直径40センチに収めてあります。
では下のシンプルなのは?
実はこれ、昔のホルンです。ベートーヴェンやモーツァルトの頃、19世紀初頭まではこの「ナチュラルホルン」が使われていました。
今のホルンと比べて、やけにスッキリしてますね。実は、ロータリーバルブという、ド・レ・ミなどと音をかえるボタンがついていないのです。まだ発明されていなかったそうです。……ということは、音をかえるときは?
実は金管楽器は、唇を調整して倍音は出すことができます。簡単にいえば、ボタンがなくても、下からド・ド・ソ・ド・ミ・ソ・シ♭・ド・レ……という音は出すことができるのです。
でも、これだけでは曲は吹けませんよね。そこで当時の作曲家も演奏者も、苦労することになります。
現在のホルン ノーラッカーの楽器です |
全部の音を出すために、まずは曲の途中で管の一部を差し替えるという荒技を繰り出します。管の長さをかえて、音をかえようというわけです。
もう一度、写真を見てください。ナチュラルホルンのまわりにたくさん並んでいる「替え管」、これを取り替えるのです。
実はこれは“荒技”でもなんでもなく、下にお見せする通り、昔の曲ではちゃんと楽譜に指定されていたりします。
矢印のところから「A管」に替えなさいという指示 今日、演奏するベートーヴェンの2楽章の譜面 |
ナチュラルホルンと調性を変えるための替え管 |
でも、差し替えできるのは休符や楽章間の休みだけ。吹きながら管を替えるのはさすがにできません。
そんなときどうするのか。なんと、手を管の出口に突っ込んで、出口のふさぎ具合で音を変えてしまうのです。スゴいですねー!
ところで今日のステージで、よーくホルンの人たちの楽器を見てみてください。金色に輝いているもの、ちょっと黄色っぽいもの、年代物のようにくすんでいるものなど、いろんな色があるのがわかると思います。
実はこれ、楽器によって材質や仕上げ方がちょっと違うからなんです。
金管楽器は普通、5円玉と同じ真鍮で作られます。真鍮は銅と亜鉛の合金ですが、配合の比率によって色が違ってきます。また、ニッケルシルバーという100円玉と同じ材質でできた銀色の楽器もあります。
これらにラッカーをかけるのが一般的ですが、ホルンはノーラッカーの楽器も多いんです。ノーラッカーだと、使っているうちに色がくすんで、シブい色になってきます。けっして掃除を怠っているわけではないんですよ。
ラッカーをかけた楽器は、ちょっと硬めの音色が特徴です。ノーラッカーだと音が軟らかくなります。
しかし!ノーラッカーの楽器は決定的に手が汚れるのです。もう、1日練習したあとなど真っ黒で、女の子と手をつないでなんて歩けません。ラッカーの楽器なら、なんといっても見ためが美しいし、そのままデートもOKです。
こんな楽器を愛してやまない埼フィルのホルンメンバー、実は今年は、オメデタ続きなんです。
1月に第1子誕生のホルン夫妻(妻は育児休団中)を皮切りに、3月にはウエディングのニュース、そして別のメンバーもベビーが誕生と、あやかりたいニュース独占です。団内では、「開運のホルンお守り」がひそかに流行しているくらいです。
そんなメンバーの、生の声を聞いてみましょう。
――ホルンを始めたきっかけは何ですか?
「初めトランペットだったんだけどレギュラーになれなくて、そうしたら学校に新しいホルンが届いて、これだー!と思って始めた」
「中学のときは、トランペット、ユーフォニウム、チューバなどでステージに乗ってました。でも、比類なき美しいホルンの音色が私を呼んだんだね。今では3本のホルンを使い分けてます」
「小学校からトランペットをやってたんですよ。それで中学に入ったら、“おまえは吹けるからホルンをやれ”とわけのわかんないこといわれて、ホルンになっちゃったんです。それから、ずーっとホルンが嫌いでトランペットをやりたくて、高校に入ったときも画策したんだけどうまくいかなくて、大学でもホルンにされて、それであきらめました」
「中学ではクラリネットを吹いてたんですよ。高校ではユーフォニウムがやりたかったけど人数がいっぱいで、1年後に吹かせてあげるからガマンして、とホルンになりました。でも演奏会でベルアップしたとき、“こんな気持ちいいものやめられない!”ってホルンにハマっちゃいました」
――最初からホルンじゃなかったんですね。では、ホルンのどんなところが楽しいですか。特長は?
「それはもう、比類なき音色の美しさでしょう」
「オレの音を聴け!」
「オレの音を聴けー!って感じ」
「あのぉ、上(の音)を引き立てるのが気持ち良くて下を吹いてる人もいるんですけど……」
「ギネスブックに載るくらい難しい楽器だから、オケのなかでヘンな音がしたらたいていホルンなんだけど、音を外しても温かく見守ってね」
「雄々しくも優雅にも、いろんな表情が出せるのが楽しいですね。今日のブラームスだったら、1楽章の終わりであれだけ吼え立ててたのが、2楽章ではじつにやさしく奏でるところなど、よーく聴いていてもらいたいです」
「1楽章の最後は、楽譜より1オクターヴ上を吹いちゃうんだ」
「聴きどころなら、ベートーヴェンの2楽章も。高い音から低い音まで飛ぶところですが、ここを美しく聴かせられるか、注目して欲しいね」
――なるほど。ではホルン吹きの性格は?何事にも凝り性の人が多いように見受けられるんですが。
「ホルン吹きが凝り性というより、凝り性がホルン吹きになるんじゃないかなぁ」
「ホルンはみんな仲がいいんです。和声の楽器だから、仲よくなきゃ仕事にならないんですけど」
「性格じゃないですが、私の趣味はコンサートに行って、他人の楽器のメーカーと型番を遠目で見て当てることです。あいつはアレキの103だな、とかね。双眼鏡を持参して、管の巻きや楽器の色、場合によってはロータリーのキャップの彫刻までチェックします。実は埼フィルに入団するまえに、団員の使ってる楽器はぜんぶ知ってました」
――ひぇ~、そこまで見られてるなんて! では、ホルンを吹いていてよかったことは?
「それは、カワイイ妻と結婚できたことに尽きるでしょう。子どもも生まれたし。うふ」
「ウチの娘とそんなに歳も違わない若い子と、気楽に話ができることだね。音楽っていいね」
「お山の大将になれたことだい!」
そうね、大将。合奏中もいつも十分に目立ってるよ。今日の本番でも、その持ち前の威力をいかんなく発揮してください。期待してます!